【失われた王について】
シンジたちが住む国は『王国』と呼ばれている。
歴史をひも解けば、八百年ほど前、王国の北に連なる山脈を越え、王族とその家臣団が南下してきて、
建国したのが始まりだと書かれている。
『王国』は順調に繁栄していき、それから百三十年後のある日、家臣たちは気づいた。
そういえば王様がいないな、と。しかも建国した時から。
史料によると、山脈を越えるあたり以降、王に関する記述がなかった。
どうやら、山の途中で王とはぐれてしまったらしい。
誰しもが血眼で山脈を捜したが、結局みつからなかった。
以来、玉座は空座となっている。
史料によれば、王の外見的特長は、銀色の髪に、紅の瞳だという。
そんな人間いないよね、と国民の誰しもが考えているが、あえて口には出さない。
さて、この国の政治は元老院・ゼーレが、失われた王に代わって執行している。
今も彼らは月に一度、会議を開き、王の捜索方法を検討している。そのメンバーには魔法使い
(なんの間違いかミサトも含まれる)、召喚士(シンジの父、ゲンドウも含まれる)、学者も参加し
ているが、なかなかこれといった方法が見つかっていない。
以前、レイがその王ではないかと城に呼び出されたことがあるが、女性であることから王でないと
され、残念賞のマグカップ(側面に王家の紋章であるイチジクの葉がプリントされたもの)を
渡されて帰ってきた。
毎年一回、初代王の誕生日に、失われた王を称える行進が首都で行われる。
行列は、赤い三角帽をかぶらされたロバ三十二頭、
すごく太った門番とガリガリに痩せた門番、
二百人の兵隊、
トラが三頭(うち一頭は、ヒダリハンブントラとミギハンブントラを合わせて一頭と換算)、
八人の王妃候補、
失われた王の好物である青い実のジャムの壜、
宮廷道化師十二人、
その年一番不味いとされた野菜(去年はピーマン)とその年一番可愛いとされた動物(去年は
コブタ)をかたどった山車、
大砲十台、
そして空の玉座を担いだ四人の男で構成される。
これらが一日かけて首都の主要な道を練り歩く様は一見の価値があり、毎年国中はもとより、
外国からも見物客が訪れるほどの人気がある。
見物に来た人々はそこで、再認識するのだ。
権力とは目に見えないものだ、と。