【ミサトの魔法 3】
ミサトが酒乱の気があり、そのせいで村に迷惑をかけるとはいえ、追い出されることが
無いのには理由がある。
ミサトが酒を飲まないと魔法が使えないことは既に述べたかもしれないが、その魔法に
よって、村の問題を解決することもあるのだ。
一時期、この村には三十年間寝ていない村人がいた。
三十年前、その男は、とある館に滞在する夢を見た。
やけに現実味を帯びた夢だったそうだ。
灯ったランプの芯を焦がす炎の揺らめき。歩くときの床をする靴底の音。廊下をメイドと
すれ違うとき、彼女の首からのぼる汗と香水の混ざった匂いなど。すべてが、起きている
ときと同じように感じられたという。
その館で次々と殺人事件が起こり、犯人として捕まりかけたところで、彼は目が覚めた。
それ以来、眠ると夢の中で逮捕され、死刑を宣告されるのではないかという恐怖から、
男は眠ることができなくなってしまう。
その村人の話を聞いたミサトは、シンジとレイを連れ、男の家に行くと、おもむろに酒を
要求した。
出された酒をラッパ飲みしたミサトはそのまま寝てしまう。その頃のシンジは、まだ
ミサトをおぶって帰るには背丈が足りなかった。
仕方なく、男の家でシンジとレイも眠ることにした。
夢の中で、シンジはミサトとレイ、そして眠らない男がいることに気づく。
しかも彼らがいるのは館の大広間だ。まだ夢の中の事件は解決していなかったのだろう。
ミサトの華麗な推理力で真犯人が判明し、事件は解決を迎えた。そして男は眠ることが
できるようになったのだ。
その一件以来、村人たちは問題が起こるとミサトのもとに酒瓶を持って現れるようになった。
しかし、魔法というものは、いつも目指す地点を少し通り過ぎるものである。
その後、シンジとレイは一年に二、三度、眠ると夢の中で怪事件に巻き込まれるように
なってしまう。夢の中でもミサトの助手であることに変わりはなく。
せめて夢の中くらい、気楽に過ごしたいものだと、シンジは考えている。